2023年5月号

和菓子とおやじさん

甘党ではないのだが、たまに和菓子が欲しくなる。店内には、こってり感もあれば、控えめなど四季を醸す様々な種類の商品が並ぶ。この国の“風情の一つだが、これらを見るたび、和菓子作りに一生を費やした「おやじさん」を思い出す。

「あんたが、この雑誌の親方か?」。30年も前、仕事の挨拶も兼ねて久之浜の菓匠「梅月」を訪れた折、おやじさんから発せられた懐かしい開口一番。店内には、いろいろな菓子類。大人気の「かしわ餅」もデンと積まれていたものだった。

名物のかしわ餅は、店主の故片寄清次さんが一職人として試行錯誤を繰り返し、精魂込めて作った“逸品。市内はもちろん、近隣、関東方面からもひっきりなし。

ところが、あの3・11の大津波、火災で店は焼失。数日後、仮住まい中の片寄さんを見舞うと、「あのなー、みんながな、また店をやってくれって言うんだよなー」「やるっきゃないでしょ」。一年後、JR常磐線久ノ浜駅近くに住居兼店舗をオープン。店の前には今も客の列が続く。

地域にも奉仕してきたおやじさんは、昨年3月17日に亡くなった。享年93歳。店は今、孫の高弘さんがしっかり継ぎ、“梅月レディースも頑張る。生前、店に顔を出せば「おぅ来たか、上がれ上がれ」でコーヒータイム。達人との四方山話は飽きなかった。来月6月16日は「和菓子の日」。(編集長)